ファクタリングは企業の資金調達手段として注目されていますが、手数料が金利に換算するとどの程度になるのか、また利息制限法との関係性について疑問を持つ経営者は少なくありません。
ファクタリングは基本的に売掛債権の売買であり、融資とは法的な位置づけが異なります。そのため、原則として利息制限法は適用されませんが、取引の実態によっては例外的に適用されるケースもあります。
本記事では、利息制限法の概要から、ファクタリングの手数料がどのように決まるのか、どのような場合に利息制限法が適用されるのかを詳しく解説します。ファクタリングを活用して資金繰りを改善したい経営者にとって、法的なリスクを避けながら有利な条件で利用するための知識を提供します。
利息制限法とは

利息制限法は、金銭の貸し付けにおける金利の上限を定めた法律で、借り手を高金利から守る役割を果たします。上限金利は借入金額によって異なり、10万円未満の場合は年利20%、10万円以上100万円未満の場合は年利18%、100万円以上の場合は年利15%と定められています。
利息制限法が制定された背景には、貸し手が優位な立場を利用して高額な利息を請求することを防ぐためです。この法律の上限を超える契約は、超過分が無効となります。ただし、利息制限法自体には罰則規定はなく、上限を超えた貸付を行っても刑事罰は科されません。
金融取引関連の法律:貸金業法・出資法とは

金融取引に関わる法律は利息制限法だけではありません。業界を規制し、消費者を保護するために、貸金業法と出資法が制定されています。これらは金利や貸金業務に関して異なる観点から規制を行っており、ファクタリングとの関係性を理解するうえでも大切な法律です。
貸金業法とは
貸金業法は、金銭の貸し付けを事業として行う業者を管理し、適正な方法で貸金業務を行わせるための法律です。貸金業を営むには都道府県知事または財務局長の登録が必要で、無登録での営業は「10年以下の懲役または3,000万円以下の罰金」という厳しい刑事罰の対象となります。
この法律では、総量規制(個人の借入残高を年収の3分の1までに制限)や、取り立て方法の規制(深夜の電話や訪問の禁止など)が定められています。貸金業者は利息制限法を遵守する必要があり、違反すると営業停止などの行政処分が課されます。2006年には多重債務問題解決のため大幅な改正が行われました。
出資法とは
出資法は、出資や預り金、金利などを取り締まる法律です。この法律には刑事罰が定められており、違反した場合は懲役や罰金などの刑罰が科される可能性があります。
出資法では、貸金業者に対して年利20%を超える金利での貸付を禁止しており、違反すると「5年以下の懲役若しくは1,000万円以下の罰金、またはその両方」が科されます。以前は利息制限法と出資法の上限金利に差があり、この差分は「グレーゾーン金利」と呼ばれていましたが、2010年の法改正によって現在は事実上消滅しています。
ファクタリングと利息制限法の関係性は?

ファクタリングは企業が保有する売掛金をファクタリング会社に売却して現金化するサービスです。この取引は融資とは根本的に異なるため、法律の適用においても大きな違いがあります。
ファクタリングは貸金業ではない
ファクタリングは貸金業ではなく、債権譲渡契約です。そのため、利息制限法は適用されません。ファクタリングでは企業が保有する売掛債権をファクタリング会社に売却し、その対価として現金を受け取ります。この取引は「売買契約」であり、「金銭消費貸借契約」ではありません。
売掛債権を売却する際には、ファクタリング会社が債権回収のリスクを引き受けます。これは融資と大きく異なる点で、融資では借り手が返済義務を負いますが、ファクタリングでは売掛先が倒産しても原則として利用者に返済義務は発生しません。そのため、ファクタリングには利息ではなく「手数料」が発生します。
ファクタリングでも利息制限法が適用される例外のケースは?

ファクタリングは原則として利息制限法の適用外ですが、一部の取引形態では例外的に適用されるケースがあります。実質的に金銭消費貸借と同様の機能を果たすと判断される場合であり、取引の実態が重視されます。
例外的なケースについて詳しく見ていきましょう。
買戻特約が付いている場合
買戻特約とは、売掛先が債務を支払わない場合に、利用者がファクタリング会社に売却した売掛金を買い戻す義務を負う契約条項です。この特約が付いていると、ファクタリング会社は売掛金が回収できなくなるリスクを負わないため、実態は融資と同様の性質を持つと判断され、貸金業と見なされることがあります。
買戻特約がある場合、ファクタリングの利用者は売掛先が支払わなかった際に責任を負うことになります。これは金銭消費貸借と認識される可能性が高く、そのケースでは利息制限法が適用されます。2017年の大阪地方裁判所の判例では、このような契約が「実質的な貸付」と判断され、過払い金の返還が命じられました。
利用会社の資産が引当財産になっている場合
「引当財産」は、主に貸金業で使われる用語で、貸し手のリスクを軽減するために借り手が提供する、担保となる資産のことです。一般的なファクタリングの契約書には、引当財産についての条項は記載されていません。
ファクタリング契約において、利用会社の財産が引当財産とされている場合は注意が必要です。契約条件によっては売掛先の不払い時に利用会社が代金を支払う義務があり、その保証として会社の財産が組み込まれることがあります。
この場合、ファクタリング会社はほぼリスクを負わず、利用会社が全てのリスクを背負うことになります。この構造は実質的にお金の貸し借りと変わらないため、法的にも融資と同様に扱われ、利息制限法の規制が適用される可能性が高くなります。
給与ファクタリングの場合
給与ファクタリングとは、労働者が将来得る予定の給与を前倒しで受け取れるようにする金融サービスです。労働者が給与債権をファクタリング会社に売却し、代金を受け取る仕組みです。
しかし、給与ファクタリングは表面上は債権売買の形を取りながらも、その実態は労働者への前貸しであり、貸金業と見なされ利息制限法の規制対象となることがあります。
最高裁判所は2023年に給与ファクタリングを「貸付に当たる」と判断しており、金融庁も「給与ファクタリングは貸金業に該当する」との見解を示しています。
参考:金融庁「給与の買取りをうたった違法なヤミ金融にご注意ください!」
ファクタリングは利息ではなく手数料が発生する

ファクタリングと融資の大きな違いは、料金の発生の仕組みにあります。融資では借入額に対して「利息」が生じるのに対し、ファクタリングでは売掛債権の譲渡に伴う「手数料」が発生します。ファクタリングは売買契約であることから、売却金額から一部を手数料として控除する形をとります。
契約形態により手数料率には幅があり、2者間ファクタリングでは10%~20%程度、3者間ファクタリングでは1%~9%程度が一般的な水準です。ただし、同じ契約形態でも会社によって料率は大きく変動することがあるため、複数社から見積もりを取得して比較検討することをおすすめめします。
この手数料を年利計算すると利息制限法の上限を超えることもありますが、ファクタリングは債権譲渡のため法的問題は生じません。ただし、極端に高い手数料設定や不透明な契約条件を提示する業者には注意が必要です。
ファクタリング手数料の決定方法

ファクタリングの手数料は、各ファクタリング会社がリスク管理の観点から独自の基準で設定していますが、一般的に以下の点が手数料に影響を与えています。
- 売掛先の信用力
- 利用者の信用力
- 売掛金の規模
- 支払期限までの期間
- 契約形態の影響
- 利用実績の重要性
それぞれについて詳しく見ていきましょう。
売掛先の信用力
ファクタリングの手数料で最も重視されるのは「売掛先の信用力」です。
売掛先の経営状況が良好で信用力が高いほど、ファクタリング会社が売掛金を回収できないリスクは低くなるため、手数料も低く設定されます。逆に、売掛先の信用力が低いと判断された場合、売掛金が回収できなくなるリスクが高まるため、手数料は高くなります。
一般的に、大企業や上場企業、官公庁などは信用力が高いと見なされるため、これらを売掛先とする売掛金は手数料が低くなる傾向にあります。
利用者の信用力
ファクタリングの審査では売掛先の信用力が最も重視されますが、利用者(申込企業)自身の信用力も手数料に影響を与えることがあります。特に2者間ファクタリングでは、利用者が信頼できる相手でなければ、ファクタリング会社は売掛金が入金されないリスクを抱えることになります。
例えば、利用者の態度が悪い、提出書類に不備がある、過去に不正行為があった場合などは、ファクタリング会社に不信感を与え、手数料が高くなる原因になります。売掛先の信用力が高くても、利用者の信用力が著しく低いと審査に通らないケースもあるため、誠実な対応を心がけることが大切です。
売掛金の規模
ファクタリング会社の手数料は、売掛金の額によっても変動します。一般的に、売却する売掛金の額が大きいほど手数料は低くなります。これは売掛金の額が大きくなるほどファクタリング会社の利益が増えるためです。
例えば、100万円の売掛金を手数料10%で買い取った場合の利益は10万円ですが、1億円の売掛金を手数料3%で買い取れば、利益は300万円になります。売掛金の額が増えても手続きにかかる手間や費用はあまり変わらないため、大きな金額の売掛金ほど効率的に利益を得られます。
手数料を抑えたい場合は、まとまった金額の売掛金を売却することが効果的です。
支払期限までの期間
ファクタリングの手数料を決める基準として「支払期日までの日数」も大きな影響を及ぼします。支払期日までの日数が長いほど、売掛先が倒産したり、不測の事態が発生したりする可能性が高まります。
そのためファクタリング会社は、支払期日までの日数が長い売掛金に対しては、売掛金の未回収リスクを考慮して手数料を高く設定し、反対に支払期日が近い売掛金は比較的低い手数料で買い取る傾向があります。
手数料を抑えたい場合は、支払期日が近づいてからファクタリングを利用するのも一つの方法です。
契約形態の影響
ファクタリングの契約方式には「2者間」と「3者間」の2種類があります。2者間ファクタリングの手数料相場は10%〜20%、3者間ファクタリングの手数料相場は1%〜9%となっています。
3者間ファクタリングの方が手数料が低いのは、売掛先が契約に加わることで、ファクタリング会社が売掛金を直接回収できるようになり、未回収リスクが低減するからです。また、売掛先に債権の存在を確認できるため、二重譲渡や架空債権のリスクも避けられます。
ただし、3者間ファクタリングは売掛先の承諾が必要になるため、取引先との関係性を考慮する必要があります。
利用実績の重要性
ファクタリング会社の手数料を決める条件の一つに「利用実績」があります。ファクタリングの利用頻度が高いと、ファクタリング会社から信頼を得やすくなり、手数料が低く設定される傾向があります。
継続的に同じファクタリング会社を利用することで、信頼関係が構築され、手数料の引き下げ交渉がしやすくなることもあります。また、利用実績が増えると審査にかかる時間が短縮されたり、利用できる売掛金の額が増えたりするメリットも得られます。
ファクタリングを定期的に利用する予定がある場合は、同じ会社との取引を続けることで、より良い条件を引き出せるでしょう。
まとめ
ファクタリングは債権譲渡契約であり、原則として利息制限法は適用されません。「利息」ではなく「手数料」が発生し、これはファクタリング会社が独自に設定します。ただし買戻特約付きの場合や給与ファクタリングなどは例外的に利息制限法が適用される可能性があります。
手数料は売掛先の信用力や契約形態などで決まり、3者間ファクタリングは2者間より低い傾向があります。利用時は複数社から見積もりを取り、相場を把握することが大切です。特に初めての場合は悪質業者を避けるため慎重に選びましょう。
ファクタリングは迅速な資金調達手段として有効ですが、その特性と法的位置づけを理解した上で活用することが望ましいでしょう。