ファクタリング契約を結ぶ際には、内容をしっかり確認することが極めて重要です。売掛金を活用した資金調達方法として注目されるファクタリングですが、契約書の細部を理解せず署名すると、予期せぬトラブルを招く可能性があります。この記事では、ファクタリング契約書の確認ポイントや注意すべき項目、契約の流れを詳しく解説します。
ファクタリングとは

ファクタリングは、企業が保有する売掛債権を期日前に現金化できるサービスです。資金調達に困っている企業にとって、売掛金を早期に資金化できる便利な手段となります。しかし、ファクタリングの基本的な仕組みと契約の性質を理解しておかなければ、思わぬリスクを背負うことになりかねません。
ファクタリングの仕組みは?
ファクタリングは売掛債権の買取りサービスです。企業が保有する売掛金を、ファクタリング会社が買い取り、その対価として手数料を差し引いた金額を支払います。
具体的には、まず企業がファクタリング会社に売掛債権を売却し、ファクタリング会社が手数料を差し引いた金額を支払います。その後、売掛金の支払期日が来ると、2社間ファクタリングの場合は利用企業が売掛先から回収した資金をファクタリング会社に支払い、3社間ファクタリングの場合は売掛先が直接ファクタリング会社に支払います。
このように、ファクタリングは債権の売買(債権譲渡)という法的性質を持ちます。
ファクタリングの違法性は?
ファクタリング自体は、適切に運用される限り違法ではありません。金融庁も「事業者の資金調達の一手段」として認めており、法的には民法第466条に基づく債権譲渡契約です。
ただし、「ファクタリング」を装って実質的には高金利での貸付けを行う悪質業者も存在します。契約書に「償還請求権あり」の条項がある場合や、保証人・担保を要求する場合は要注意です。
正規のファクタリングは売掛債権の譲渡であり、返済義務を負うものではないため、適切な契約を結べば安全に利用できます。
ファクタリング契約の流れ

ファクタリング契約を結ぶ際には、一定の流れに沿って手続きが進みます。契約の流れを把握することで、スムーズな資金調達が可能になります。
信頼できるファクタリング会社の選定
信頼できるファクタリング会社を選ぶことが、安全なファクタリング利用の第一歩です。複数の会社から見積もりを取得し、手数料率や契約条件を比較することが重要です。
優良なファクタリング会社は、手数料や契約内容を明確に説明し、質問に丁寧に回答します。また、無理に契約を急かさず、契約書の内容について十分な説明を行います。
ファクタリング契約手続きの申込み
ファクタリング会社の選定後、申込み手続きを行います。申込み方法は、電話、訪問、インターネット、郵送など会社によって異なります。
申込み時には、必要な資金額や売掛金の詳細、希望する契約形態(2社間・3社間)などを伝えます。緊急の資金調達が必要な場合は、即日対応可能な会社かどうか事前に確認しておくとよいでしょう。
また申込み前に、売掛金の買取可能性や手数料の目安について、事前相談を行える会社を選ぶと安心です。申込み後、ファクタリング会社からヒアリングや必要書類の提出依頼があります。
審査の必要書類の提出
ファクタリング審査には、いくつかの基本的な書類が必要です。一般的に求められるのは、売掛金の証明書類(請求書・納品書・発注書など)、過去の入金が確認できる書類(通帳のコピーなど)、法人の登記簿謄本や個人の身分証明書、印鑑証明書などです。
審査能力の高いファクタリング会社は、必要最小限の書類で迅速に審査してくれます。逆に過剰な書類を要求する会社は、審査に時間がかかるか、審査能力が低い可能性があります。
ファクタリング契約の締結
審査通過後、契約締結の段階に入ります。契約書には債権譲渡契約の内容が詳細に記載されています。契約書の内容を一語一句丁寧に確認し、不明点があれば必ず質問しましょう。
特に手数料率、債権譲渡の対象と範囲、債権譲渡通知の有無、債権譲渡登記の有無、償還請求権の有無などは重要な確認ポイントです。
契約書は2部作成し、ファクタリング会社と利用者が1部ずつ保管するのが原則です。契約書の控えを渡さない業者は悪質である可能性が高いため注意が必要です。
入金
契約締結後、ファクタリング会社から指定口座に入金されます。入金は契約締結と同日のケースが多いですが、業者によっては翌営業日以降になることもあります。
入金された金額が契約通りかどうか、手数料が適正に計算されているかを必ず確認します。また、想定外の手数料が差し引かれていないかも確認しましょう。
入金後は、「2社間ファクタリング」の場合、売掛先から入金があった際にファクタリング会社へ送金する義務が生じるため、その期日や送金方法も把握しておく必要があります。
ファクタリング契約書の重要チェックポイント

ファクタリング契約書には、様々な重要項目が記載されています。契約前にこれらの項目を詳細に確認することで、トラブルを未然に防ぎ、安全にファクタリングを利用することができます。
譲渡対象・契約期間・売掛先への通知の有無
対象となる債権の金額、支払期日、売掛先の情報などが正確に記載されていなければなりません。
また、契約期間についても確認が必要です。一度きりの契約なのか、継続契約で自動更新があるのかを把握しておかないと、想定外の継続料が発生する可能性があります。
ファクタリング契約の解除条件・資金返還条件
どのような場合に契約が解除されるのか、解除された場合の手続きや違約金はどうなるのかを確認します。
利用者側からの契約解除が可能かどうかも確認しておくべきです。契約解除の条件がファクタリング会社側に一方的に有利な内容になっていないか注意が必要です。
損害賠償・違約金の設定
損害賠償額や違約金の金額が適正かどうか、あまりにも高額な設定になっていないか確認します。
どのような場合に損害賠償や違約金が発生するのかも明確にしておく必要があります。特に2社間ファクタリングの場合、売掛先から回収した資金をファクタリング会社に送金する義務があるため、その送金期限や遅延した場合のペナルティについても確認します。
償還請求権の有無
償還請求権とは、売掛金が回収不能になった場合に、ファクタリング会社が利用者に売掛金相当額の返還を請求できる権利のことです。
正規のファクタリングでは、償還請求権なし(ノンリコース契約)が原則です。償還請求権あり(リコース契約)の場合、実質的には売掛債権を担保とした貸付けとみなされ、貸金業法の規制対象となります。
ファクタリング契約書に償還請求権ありの条項が含まれている場合、その業者は貸金業登録を受けていない違法な業者である可能性が高いため、契約を避けるべきです。
債権譲渡登記の有無
債権譲渡登記とは、債権が譲渡されたことを法務局に登記することで、第三者に対しても債権譲渡の事実を主張できるようにする制度です。2社間ファクタリングでは、債権譲渡登記を行うことが一般的ですが、登記費用は利用者負担となることが多いため、その金額も確認しておく必要があります。
また、債権譲渡登記は誰でも閲覧できるため、売掛先や取引銀行などにファクタリングの利用が知られる可能性があります。債権譲渡登記を行わない(留保する)契約も可能ですが、その場合は契約書にその旨が明記されているか確認しましょう。
手数料
手数料率が明確に記載されているか、事前に提示された手数料と一致しているか確認します。
また、手数料以外にも審査手数料、事務手数料、振込手数料などの追加費用が発生する場合があります。これらの諸費用についても全て明確に記載されているか確認し、想定外の費用負担が発生しないようにしましょう。
ファクタリング契約における重要な注意点

ファクタリング契約を結んだ後も、いくつかの重要な注意点があります。契約時だけでなく、契約後の手続きや対応にも気を配ることで、安全かつスムーズにファクタリングを活用することができます。
入金の際の金額と手数料の確認
契約通りの金額が指定口座に入金されているか必ず確認しましょう。入金額は、売掛金の額面から手数料を差し引いた金額となります。
事前に説明された手数料率と実際の手数料額が一致しているか計算して確認してください。また、契約書に記載されていない追加手数料や諸経費が差し引かれていないかもチェックすべきです。
売掛金の回収と送金
2社間ファクタリングを利用した場合、売掛先から売掛金が入金されたら、契約で定められた期間内にファクタリング会社へ送金する必要があります。この送金義務を怠ると、契約違反となり損害賠償や違約金の対象となる可能性があります。
売掛金が入金されたら速やかに送金し、送金後は必ず入金確認を取るようにしましょう。また、送金の記録や受領書は必ず保管しておくことで、後々のトラブルを防ぐことができます。
債権譲渡登記の抹消手続き
2社間ファクタリングで債権譲渡登記を行った場合、取引終了後には登記の抹消手続きが必要です。抹消手続きを怠ると、将来的に他の金融機関との取引や別のファクタリング会社の利用に支障をきたす可能性があります。
抹消登記には、申請書類の提出と登録免許税(通常1,000円程度)が必要です。抹消手続きの責任者や費用負担については、契約書に明記されていることが多いため、内容を確認しておきましょう。
ファクタリング会社を選ぶ際の重要なポイント

信頼できるファクタリング会社を選ぶことは、安全なファクタリング利用の第一歩です。悪質な業者によるトラブルを避けるためにも、ファクタリング会社選びには慎重になる必要があります。
契約書の控えを渡してくれるか
契約書は双方が1通ずつ保管するのが基本であり、控えを渡さない業者は悪質である可能性が高いです。
契約書の控えは、契約内容の証拠として不可欠であり、後々のトラブル防止のためにも必要です。もし「経費削減のため」などの理由で控えを渡さない場合でも、少なくとも契約書のコピーを求めましょう。
契約書がないと、契約条件に関する争いが生じた場合に自分の主張を立証できなくなります。ファクタリング契約前に、必ず契約書の控えをもらえるか確認し、控えを渡さない業者との契約は避けるべきです。
疑問に対して丁寧な説明をしてくれるか
信頼できるファクタリング会社は、契約内容について丁寧に説明してくれます。契約書の内容や手数料の計算方法、債権譲渡の手続きなど、疑問点について明確に回答してくれるかどうかを確認しましょう。
質問に対して曖昧な回答や説明を避ける態度を示す業者は要注意です。特に初めてファクタリングを利用する場合は、分からない点が多いはずです。それらの疑問に対して分かりやすく説明してくれる会社を選ぶことが大切です。
無理に契約をまとめようとしないか
信頼できるファクタリング会社は、無理に契約をまとめようとはしません。契約を急かしたり、「今日中に契約しないと条件が悪くなる」などと言って焦らせたりする業者は避けるべきです。
じっくり検討する時間を与えてくれない業者は、契約内容に不利な条件が含まれている可能性があります。また、「審査手数料」などの名目で前払いを要求する業者も悪質な場合が多いです。
正規のファクタリング会社では、審査や契約前に料金を請求することはありません。契約に関して適切な検討時間を与えてくれる会社、契約を強要せず利用者のペースに合わせてくれる会社を選ぶことが重要です。
償還請求権の有無
ファクタリング会社を選ぶ際に確認すべき最も重要なポイントの一つが、償還請求権の有無です。正規のファクタリングは「ノンリコース」(償還請求権なし)が原則です。売掛先が倒産などの理由で売掛金を支払えない場合でも、利用者に返還義務は生じません。
もし契約に「リコース」(償還請求権あり)の条項が含まれている場合、それは実質的には融資であり、貸金業法の規制対象となります。貸金業登録を受けていない業者がこのような契約を結ぶことは違法です。
償還請求権の有無は契約書に必ず記載されていますので、契約前に確認することが重要です。償還請求権ありの契約を求めてくる業者は避け、必ずノンリコース契約を提供するファクタリング会社を選びましょう。
まとめ
ファクタリング契約書の内容をしっかり理解し、重要なポイントを確認することは、安全にファクタリングを活用するために非常に重要です。特に償還請求権の有無、債権譲渡登記、手数料設定、契約解除条件などは必ず確認しましょう。
信頼できるファクタリング会社は、契約内容を明確に説明し、質問にも丁寧に対応してくれます。契約書の控えをきちんと渡してくれることも重要な判断基準です。
この記事で紹介したチェックポイントや注意点を参考に、安全で効果的なファクタリング利用を実現してください。