医療機関の経営者様、診療報酬の入金までの2ヶ月間のキャッシュフローにお悩みではありませんか?人件費や設備投資など、タイミングを逃せない支出に直面する中、資金繰りの改善は喫緊の課題です。そこで注目したいのが「診療報酬債権ファクタリング」です。
診療報酬債権を早期に資金化できるこの仕組みを活用すれば、最短5営業日で現金化が可能。担保や保証人も不要で、バランスシートの改善にも貢献します。本コラムでは、仕組みからメリット・デメリット、適切な活用法まで解説します。資金調達の選択肢を広げ、安定した医療経営を実現しましょう。
診療報酬(医療)ファクタリングとは

診療報酬(医療)ファクタリングとは、医療機関が国民健康保険団体連合会(国保連)や社会保険診療報酬支払基金(社保)から受け取る予定の診療報酬債権を、ファクタリング会社に譲渡して早期に資金化するサービスのこと。
通常、医療機関は診療を行った月の約2ヶ月後に診療報酬を受け取りますが、このサービスを利用することで、最短5営業日程度での資金化が可能になります。医療機関が持つ診療報酬債権は、公的機関が支払う安全性の高い優良債権とされており、診療報酬の約8割相当額を早期に入金できる仕組みです。
医療機関の資金繰り改善、設備投資資金の調達、人材採用資金の確保など、さまざまな資金ニーズに活用できる金融サービスといえます。
診療報酬 ファクタリングの仕組み

診療報酬ファクタリングは主に3社間ファクタリングの形で実施されます。医療機関がファクタリング会社に診療報酬債権を譲渡し、ファクタリング会社は診療報酬債権の額の約8割を医療機関に先払いします。
その後、医療機関は通常通り国保連・社保にレセプトを送付して診療報酬を請求します。国保連・社保は審査後、確定した診療報酬をファクタリング会社に直接支払い、ファクタリング会社は支払われた診療報酬から先払い額と手数料を差し引いた残額を医療機関に支払います。
支払いが2回に分かれているのは、支払機関による審査が終わるまで診療報酬の額が確定しないためです。一部のファクタリング会社では、審査前でも全額を買い取る場合もあります。
参考記事:3社間ファクタリングとは?流れや手数料、メリット・デメリットを解説
ファクタリングと他の融資方法の違い
診療報酬ファクタリングと銀行融資には明確な違いがあります。最大の違いは、ファクタリングは「債権の売却」であり、銀行融資は「借入」である点です。そのため、ファクタリングは負債として計上されず、財務状況改善に役立ちます。
また、ファクタリングは売掛先(国保・社保)の信用力で審査されるため、新規開業や財務状況が厳しい医療機関でも利用しやすい特徴があります。手続きの面でも、ファクタリングは数日〜数週間で資金化できますが、銀行融資は審査に3ヶ月程度かかることもあります。
さらに、ファクタリングでは資金使途に制限がありませんが、銀行融資では資金使途が限定されるケースもあります。
診療報酬ファクタリングのメリット

診療報酬ファクタリングには、医療機関にとって複数のメリットがあります。
まず、診療報酬の受取期間を約2ヶ月から最短5営業日に短縮できるため、キャッシュフローが大幅に改善します。また、審査に通りやすいのも特徴です。売掛先が国保連・社保という高い信用力を持つ公的機関であるため、医療機関の財務状況よりも売掛先の信用力が重視されます。
手数料も一般的なファクタリングより低く設定され、1%前後であることが多いです。さらに、ファクタリングは「借入」ではなく「債権譲渡」のため負債に計上されず、オフバランス化によるROAなどの財務指標向上につながります。
診療報酬ファクタリングのデメリット

診療報酬ファクタリングには注意すべきデメリットもあります。
最も大きなデメリットは、受け取る診療報酬が手数料分だけ減少することです。一般的な手数料は1%前後ですが、手数料を支払い続けると、長期的には資金繰りが悪化する可能性があります。
また、ファクタリングを一旦始めると途中での中止が難しい点も課題です。中止月には診療報酬が入らないため、よほどの資金的余裕がないと資金ショートするリスクがあります。
さらに、2社間ファクタリングに比べると3社間ファクタリングは時間がかかり、即日現金化は難しいでしょう。診療報酬ファクタリングを取り扱うファクタリング会社は限られており、選択肢が少ない点も制約となります。
なお、ファクタリングを装った悪徳業者も存在するため、業者選びには十分な注意が必要です。
ファクタリングサービスを利用する際に重視したいポイント

診療報酬ファクタリングは資金繰り改善に有効なツールですが、すべてのサービスが同じわけではありません。安心して利用するためには、いくつかの重要なポイントを確認し、自院に最適なサービスを選ぶことが大切です。以下では、ファクタリング会社を選定する際に特に重視すべき項目について詳しく解説します。
入金処理の速さ
診療報酬ファクタリングを利用する最大のメリットは、診療報酬の早期現金化にあります。
通常のファクタリングサービスでは、入金までのスピードはファクタリング会社によって即日〜1週間程度と異なります。診療報酬ファクタリングの場合、3社間ファクタリングの形態をとることが多いため、即日入金は難しいものの、最短5営業日程度での入金が可能な会社も少なくありません。
資金ニーズが急を要する場合は、入金スピードを重視して選定することが重要です。ただし、入金が早いサービスは手数料が高めに設定されていることが多いため、資金化のスピードと手数料のバランスを考慮して選ぶことが大切です。
安全性に関する考慮
診療報酬ファクタリングを選ぶ際、安全性は最も重要なポイントの一つです。
近年、ファクタリングを装った悪徳業者の存在も確認されており、金融庁からも注意喚起が行われています。安全なファクタリング会社を見つけるためには、会社のホームページで手数料などのサービス概要が明確に記載されているか、導入実績が確認できるかといった点をチェックしましょう。
また、上場企業や金融機関のグループ会社であれば、信頼性は高いと考えられます。相場と比較して極端に高額な手数料を設定している業者や、担保の提供を強要する業者には注意が必要です。
手数料と金利について
ファクタリングサービスを選ぶ上で、手数料は重要な判断材料です。
診療報酬ファクタリングの手数料の相場は、一般的に1%前後と言われています。売掛先が国保連・社保という公的機関であるため、通常の3社間ファクタリングの相場(1〜9%)よりも低く抑えられているのが特徴です。
ただし、手数料以外にも初回手数料や月額利用料、更新料、審査料などが発生する場合があるため、総コストを比較することが重要です。
ファクタリングサービスの留意点
診療報酬ファクタリングを利用する際の留意点として、利用期間の縛りや解約時の違約金の有無も確認すべき重要事項です。
中には長期契約を前提としているサービスもあり、途中解約に制限がある場合があります。また、ファクタリングは正当な資金調達手段ですが、金融業ではないため規制が緩く、質の悪い業者も存在しています。相場より高額な手数料を請求したり、債権譲渡ではなく担保提供を強要したりする悪徳業者には注意が必要。
さらに、診療報酬債権には3年の時効があるため、時効が迫っている債権については資金化できない点も理解しておくべきです。長期的な資金繰り計画を立てる際は、ファクタリングへの依存度を高め過ぎないことも大切です。
入金までの手順

診療報酬ファクタリングでの資金調達は、以下のステップで進みます。
- ファクタリング会社への申し込み
まずは診療報酬ファクタリングを取り扱っているファクタリング会社に申し込みを行います。電話やWebフォームから24時間対応している会社も多くあります。 - 必要書類の提出と審査
履歴事項全部証明書、法人の登記簿謄本、印鑑証明書、決算書、診療報酬請求書、通帳のコピーなど必要書類を提出します。ファクタリング会社が医療機関の状況と診療報酬債権を審査します。 - 債権譲渡契約の締結
審査通過後、医療機関とファクタリング会社で診療報酬債権譲渡契約を締結します。契約内容を十分確認し、後のトラブル防止のため契約書の控えは必ず保管しておきましょう。 - 債権譲渡通知の送付
医療機関とファクタリング会社の連名で、国保連や社保に債権譲渡通知書を送付します。これにより債権譲渡の法的効力が発生します。 - 1回目の入金(約8割)
通常、譲渡した診療報酬債権の約8割が、ファクタリング会社から医療機関へ先払いされます。契約から数営業日で入金されるケースが一般的です。 - 診療報酬の確定
国保連・社保による診療報酬の審査が行われ、支払額が確定します。 - 2回目の入金(残金)
支払機関からファクタリング会社に診療報酬が支払われた後、1回目の支払い分と手数料を差し引いた残額が医療機関に支払われます。
まとめ
診療報酬債権ファクタリングは、医療機関の資金繰り改善に大きな力を発揮するツールです。通常2ヶ月後に入金される診療報酬を最短5営業日で資金化できることで、安定した経営基盤の構築に役立ちます。
一般的なファクタリングと比較して手数料が低く設定されている点も魅力ですが、長期的な依存はかえって資金繰りを悪化させる可能性があります。ファクタリング会社選びでは、入金スピード、安全性、手数料体系を比較し、自院の経営状況に最適なパートナーを見つけることが重要。
計画的な活用により、設備投資や人材確保といった医療機関の成長戦略を実現し、より質の高い医療サービスを提供することができるでしょう。