競輪選手の最高速度は?時速何キロで戦っているのか

競輪選手の最高速度は?時速何キロで戦っているのか

鍛え上げられた肉体を持つアスリートたちが、コンマ数秒、数センチの差を争い、激しく火花を散らす競輪。その魅力の一つは、なんと言っても人間の力だけで生み出される圧倒的なスピード感にあります。テレビ画面越しでも伝わるその迫力ですが、選手たちは一体、時速何キロという世界で戦っているのでしょうか。

この記事では、競輪選手がレース中に叩き出す最高速度から、他の競技との速度比較、そしてその驚異的なスピードを生み出す秘密まで、詳しく解説していきます。競輪の「速さ」の正体を知れば、レース観戦がより一層スリリングで、感動的なものになるはずです。

目次

競輪の速度は最高時速70km

競輪の速度は最高時速70km

競輪のレースは、常に同じペースで進むわけではありません。序盤はラインごとの位置取りや、他のラインの動きを探るための牽制が続き、比較的ゆっくりとしたペースで周回します。

しかし、レース終盤、「打鐘(ジャン)」と呼ばれる鐘が鳴り響く残り1周半あたりから、レースは一気にヒートアップします。特に、最終周回のバックストレッチラインからゴールまでの間では、選手たちのスパート合戦が繰り広げられ、その速度は最高潮に達します。 トップクラスのS級選手たちがゴール前でスプリントをかける際の最高速度は、時速70kmにも及ぶと言われています。これは、原動機付自転車(原付)の法定速度をはるかに超え、高速道路を走る自動車に匹敵するほどのスピードです。風の抵抗を全身で受けながら、自らの脚力だけでこの速度域に到達し、さらにライバルと激しく競り合う。競輪は、極めて高い身体能力と技術が求められる、まさに極限のプロスポーツなのです。

ロードレースとの速度差は?

同じ自転車競技であるロードレースと比較すると、競輪の速度の特異性がより明確になります。ツール・ド・フランスに代表されるロードレースでは、平坦なコースでのゴールスプリント時など、瞬間的には競輪と同様に時速70km近いスピードが出ることがあります。

しかし、ロードレースは数百キロに及ぶ長丁場であり、登坂区間や向かい風など、様々な条件下で平均速度を維持する持久力が求められます。 一方、競輪は比較的短い距離(通常2,000m前後)での瞬発力と最高速度の勝負に特化しています。そのため、常に高速域でのパワー発揮が求められ、特にゴール前の爆発的な加速力は、競輪選手ならではのものと言えるでしょう。

ボートレースとの速度差は?

水上の格闘技とも称される競艇(ボートレース)も、スピード感あふれる公営競技です。競艇のボートは、直線では時速80km程度に達すると言われており、最高速度だけを見れば競輪を上回ります。

しかし、競艇の醍醐味はそのスピードだけでなく、ターンの際の激しい攻防と、引き波による水面の変化にあります。 競輪は、選手同士が物理的に接触するほどの近距離で、ラインというチームを組んで駆け引きを行います。人間の脚力だけで時速70kmに達し、コンマ数秒の判断でライバルをブロックしたり、隙を突いたりする。その肉体と戦略が織りなすスピード感は、モーターの力で走るボートレースとはまた違った、人間離れした迫力と魅力を持っています。

競馬との速度差は?

サラブレッドが騎手を乗せて走る競馬も、そのスピードと迫力で多くのファンを魅了します。競走馬のトップスピードは、時速60kmから70km程度と言われており、これは競輪選手の最高速度とほぼ同じか、それを上回ることもあります。特に、広大なレース場の最終直線を、力強く駆け抜けてくるサラブレッドたちの姿は圧巻です。 競輪との大きな違いは、その動力源が「馬」という生き物であることです。馬の能力やその日のコンディション、騎手とのコンビネーションといった要素が複雑に絡み合い、レース結果を左右します。

一方、競輪は選手の肉体能力と精神力、そして自転車という機材、ラインという戦術が勝敗を決します。どちらも高速での駆け引きが魅力ですが、その速さの質は全く異なると言えるでしょう。

競輪の速さの秘密

競輪の速さの秘密

時速70kmという、自動車に匹敵するスピードを、なぜ競輪選手は自らの脚力だけで生み出すことができるのでしょうか。その驚異的な速さの裏には、鍛え上げられた肉体、特殊な機材、そして独自のテクニックと、計算され尽くした走路の存在があります。

競輪選手の太ももがもたらす驚異的な筋力

競輪選手の身体的特徴として最も象徴的なのが、丸太のように太く鍛え上げられた「太もも」です。成人男性の平均的な太もも周りが50cm程度であるのに対し、競輪選手の平均は60cm以上、トップ選手では70cmを超えることも珍しくありません。この太さは、単なる脂肪ではなく、日々の過酷なトレーニングによって極限まで発達させた筋肉の塊です。 ペダルを力強く踏み込むための太もも前側の「大腿四頭筋」、そしてペダルを引き上げる際に使う太もも裏側の「ハムストリングス」や、お尻の「大臀筋」。これらの巨大な筋肉群が、レースにおける爆発的なダッシュ力や、高速域でのパワーを維持するための源泉となっています。

オーダーメイド特注の自転車には固定ギアが採用

競輪で使用される自転車(レーサー)も、スピードを追求するために極限まで無駄を削ぎ落とした特殊な機材です。素材には、軽量かつ高剛性なクロモリ(クロムモリブデン鋼)が主に使われ、選手一人ひとりの体格や脚質に合わせて、ミリ単位で設計される完全なオーダーメイド品です。 そして、最大の特徴が「ブレーキがなく、ギアが固定されている(固定ギア)」という点です。固定ギアは、ペダルの回転と後輪の回転が直結しているため、脚の力をダイレクトに推進力に変えることができます。

また、選手は脚の力だけで速度を微調整するため、人車一体となった繊細なコントロールが可能になります。この特殊な自転車が、競輪ならではのスピードと駆け引きを生み出しているのです。

「もがき」という走行テクニック

競輪選手は、日々のトレーニングで「もがき」と呼ばれる特殊な練習を繰り返し行います。これは、レース本番のゴールスプリントなどを想定し、一定の距離を全力でダッシュする高強度なトレーニングです。この練習を反復することで、爆発的な瞬発力と、乳酸が溜まる苦しい状況でもペダルを踏み続ける筋持久力、そして強靭な精神力が養われます。 レース中、特に最終周回でのスパートは、まさにこの「もがき」そのものです。他の選手の動きを見ながら、最高のタイミングで仕掛け、ゴールまでトップスピードを維持する。日々の過酷な「もがき」練習で培われた力が、時速70kmという極限のスピードバトルを可能にしているのです。

バンクの傾斜を駆使した走り

競輪場の走路である「バンク」には、最大で35度近くにもなる急な傾斜(カント)がつけられています。この傾斜は、高速でコーナーを曲がる際に、遠心力で外側に膨らむのを防ぐために設計されています。選手たちは、この傾斜を巧みに利用して、コーナリング時にもスピードを落とすことなく走り抜けます。 また、この傾斜を使って加速することも重要なテクニックの一つです。レース終盤、後方にいた選手が、バンクの最も高い位置から傾斜を利用して一気に加速し、前の選手を抜き去る「捲り(まくり)」という戦法は、競輪の醍醐味の一つです。選手たちは、このバンクの形状を完全に把握し、自らの脚力と組み合わせることで、驚異的なスピードを生み出しているのです。

競輪のスピードによる事故の危険も

競輪のスピードによる事故の危険も

時速70kmものスピードで、複数の選手がコンマ数秒の差を争う競輪は、常に落車(転倒)という大きなリスクと隣り合わせの競技です。選手同士のわずかな接触や、タイヤのスリップ、機材の故障などが、大規模な落車事故を引き起こすことがあります。 落車した選手は、硬いバンクに高速で叩きつけられるため、擦過傷はもちろんのこと、骨折や脱臼といった大怪我を負うことも少なくありません。時には、選手生命を脅かすほどの深刻な怪我につながるケースもあります。また、一つの落車が、後続の多くの選手を巻き込む多重落車に発展することも頻繁に起こります。 選手たちは、ヘルメットやプロテクターを着用し、日々の訓練で危険回避能力を高めていますが、それでも事故を完全に防ぐことはできません。この落車の危険性もまた、競輪という競技の厳しさと、選手たちの勇気を物語る一面と言えるでしょう。

まとめ

競輪選手がレース中に繰り広げるスピードバトルは、最高時速70kmにも達する、人間の身体能力の限界に迫る世界です。その驚異的な速さは、平均60cmを超える太ももがもたらす筋力、無駄を削ぎ落とした専用の自転車、そして「もがき」と呼ばれる過酷なトレーニングと、バンクの傾斜を巧みに利用する高度なテクニックの賜物です。 他の公営競技と比較しても、人間の肉体が主役となる競輪のスピード感は、独特の迫力と魅力を持っています。

しかし、その高速バトルは常に落車という危険と隣り合わせであり、選手たちは日々そのリスクと向き合いながら戦っています。 競輪を観戦する際には、ただ着順を予想するだけでなく、この時速70kmの世界で繰り広げられる選手たちの驚異的な身体能力と、その裏にある努力や駆け引きにも注目してみてください。そうすれば、競輪の持つ真の面白さと、アスリートとしての選手たちの凄みを、より深く感じることができるはずです。

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