プロスポーツの中でも、特に実力主義が色濃く反映される競輪の世界。そのトップ選手たちは、一般のサラリーマンの生涯年収を1年で稼ぎ出すこともあり、非常に夢のある職業として知られています。しかし、その華やかな世界の裏側で、選手たちがどのように収入を得て、どのような生活を送っているのかは、あまり知られていないかもしれません。この記事では、競輪選手の年収について、一般社会人との比較から、具体的な収入源、そして厳しい階級制度による平均年収の違い、さらには高収入の裏にある特有の経費まで、詳しく解説していきます。競輪というプロスポーツの経済的な側面を知ることで、レース観戦がより一層面白くなるかもしれません。
一般社会人の平均年収はいくら?

競輪選手という特殊な職業の年収を考える前に、まずは比較対象として一般社会人の平均年収を確認しておきましょう。これを基準とすることで、競輪選手の世界がいかに異なるかが明確になります。
国税庁が発表している「民間給与実態統計調査」によると、日本の給与所得者の平均年収は近年450万円前後で推移しています。もちろん、これは年齢や業種、役職、雇用形態などによって大きく異なりますが、社会全体の平均的な収入水準を示す一つの目安となります。競輪選手の世界は、この平均年収をはるかに超える高収入を得るチャンスがある一方で、成績が振るわなければ収入が大きく減少するリスクも伴う、厳しい実力主義の世界です。この基準値を念頭に、競輪選手の収入の実態を見ていきましょう。
競輪選手の給料はどれくらい?

では、競輪選手の収入はどの程度なのでしょうか。その平均額と、トップ選手が手にする驚きの金額から、この職業の経済的なスケールが見えてきます。
競輪選手は会社に雇用されているわけではなく、個人事業主にあたるため、厳密には「給料」ではなく「報酬」として収入を得ます。その年収は、選手の実力や活躍によってまさに天と地ほどの差が生まれる世界です。競輪選手全体の平均年収は、約1,200万円から1,400万円程度とされており、一般社会人の平均年収と比較すると非常に高い水準にあることがわかります。しかし、これはあくまで平均値です。トップクラスの選手になれば、年間獲得賞金だけで1億円を超えることも珍しくありません。特に年末に行われる競輪界最高峰のレース「KEIRINグランプリ」の優勝賞金は1億円を超え、これを手にすれば一気にスター選手の仲間入りを果たします。
競輪選手はどのように収入を得ているのか?

競輪選手の収入源は、レースで勝利して得られる賞金が大部分を占めますが、それだけではありません。レースに出走すること自体で得られる手当など、選手生活を支えるいくつかの収入源が存在します。
レースで獲得できる賞金額
競輪選手の収入の柱となるのが、レースで獲得する賞金です。賞金額は、レースの格式(グレード)によって大きく異なり、選手の収入格差を生む最大の要因となっています。最高峰の「GP(グランプリ)」、それに次ぐ「G1(GⅠ)」「G2(GⅡ)」「G3(GⅢ)」、そして「F1(FⅠ)」「F2(FⅡ)」という順で賞金額が設定されています。年末の「KEIRINグランプリ」の優勝賞金は1億円を超え、G1レースでも優勝すれば数千万円の賞金を手にすることができます。一方で、下位グレードのF2レースでは、1着でも賞金は数万円程度です。着順によっても賞金額は変動し、上位に入るほど高額になります。まさに、自身の脚力と実力だけが収入に直結する、シビアで分かりやすい世界と言えるでしょう。
出走時の各種手当やその他の収入源
競輪選手は、レースで上位に入れず賞金を獲得できなかったとしても、レースに出走するだけで得られる手当があります。これを「出走手当」と呼び、レースのグレードや開催地までの距離などによって金額は異なりますが、数万円程度が支払われます。これにより、最低限の収入は確保される仕組みになっています。また、レース内容に応じて「敢闘手当」が支給されることもあります。この他にも、ヘルメットやユニフォーム、自転車部品といった競技に必要な物品を、競輪施行者からあっせん価格で購入できる制度もあります。これは直接的な収入ではありませんが、経費を抑える上で選手にとって重要なサポートとなっています。
出場できない選手に支払われる手当
競輪選手は、成績不振や怪我などによって、レースへの出場斡旋がされない「あっせん保留」や「あっせん停止」といった状況に陥ることがあります。レースに出場できなければ、賞金や出走手当を得ることができず、収入が途絶えてしまいます。こうした選手を救済するために、最低限の生活を保障するセーフティネットとして、選手会(日本競輪選手会)から手当が支給される場合があります。ただし、これはあくまで一時的な救済措置であり、全ての選手が対象となるわけではありません。競輪選手として生計を立てていくためには、コンディションを維持し、常にレースに出場し続けることが基本となります。
先導誘導員に支払われる手当
競輪のレースで、選手の先頭を走り風よけの役割を担う「先導誘導員(ペーサー)」も、実は現役の競輪選手が務めています。先導誘導員は、レースの公正を保ち、規定のペースで選手を誘導するという重要な役割を担っており、この業務に対してはレースの賞金とは別に手当が支払われます。1レースあたり数万円程度の日当が支払われるため、安定した収入源の一つとなります。全ての選手が務めるわけではなく、経験や実績のある選手が担当することが多いですが、賞金以外の形で収入を得る手段として、選手生活を支える上で重要な役割を果たしていると言えます。
イベント出演料などの収入源
トップクラスの人気と実力を兼ね備えた競輪選手になると、レースの賞金や手当以外にも収入源が生まれます。例えば、競輪場で行われるファンサービスイベントへの出演料、トークショーへのゲスト参加、メディア(テレビ、雑誌など)への出演料などが挙げられます。また、自転車メーカーや関連企業とスポンサー契約を結び、CM出演や広告塔として活動することで契約金を得る選手もいます。これらの副収入は、選手の知名度や人気に大きく左右されるため、全ての選手が得られるわけではありませんが、トップ選手にとっては自身の価値をさらに高める重要な収入源となっています。
階級別平均年収は?

競輪選手はS級・A級・L級という階級に分かれており、それによって出場できるレースや収入は大きく異なります。各階級の平均年収を見ていきましょう。
S級選手の平均年収
S級は、競輪選手の中でもトップクラスの実力者が集まる階級です。S級はさらに、頂点に君臨する「S級S班(S班)」、それに次ぐ「S級1班」「S級2班」に分かれています。S級全体の平均年収は3,000万円を超えるとされ、一般社会人の収入をはるかに上回ります。特に、毎年9名しか選ばれないS級S班の選手は、全てのG1レースへの出場権が与えられるなど、高額賞金レースに出場する機会が非常に多く、年収1億円を超えることが当たり前の世界です。S級1班や2班の選手も、G1やG2といったビッグレースでの活躍次第で、数千万円単位の年収を得ることが可能です。
A級選手の平均年収
A級は、S級に次ぐ階級であり、多くの競輪選手がこのクラスに所属しています。A級も「A級1班」「A級2班」「A級3班」と3つの班に分かれています。A級選手の平均年収は、1,000万円前後と言われています。これも一般社会人と比較すれば高い水準ですが、S級選手との間には大きな隔たりがあります。A級のレースはS級のレースに比べて賞金額が低く、G1などの高額賞金レースへの出場機会も限られます。A級の中でもトップクラスの成績を収め、A級優勝を重ねることで高収入を得ることは可能ですが、多くの選手はS級への昇格を目指して日々厳しいトレーニングに励んでいます。
L級選手の平均年収
L級は、女子競輪(ガールズケイリン)の選手が所属する階級で、「L級1班」のみで構成されています。ガールズケイリンは2012年にスタートした比較的新しい競輪であり、その歴史やレース体系、賞金規模も男子とは異なります。L級選手の平均年収は、600万円から700万円程度とされています。男子のA級選手よりは低い水準ですが、トップ選手になれば年間獲得賞金が1,000万円を超えることも珍しくありません。年末に行われる「ガールズグランプリ」の優勝賞金も高額であり、女子選手にとっても夢のある世界が広がっています。
競輪選手には一般社会人にはない多くの出費がある

高収入のイメージがある競輪選手ですが、個人事業主であるがゆえに、多岐にわたる経費を自己負担する必要があります。その収入の全てが手元に残るわけではありません。
競輪選手は、その華やかな世界の裏側で、一般の会社員にはない多額の出費を自ら賄っています。最も大きな出費の一つが、商売道具である自転車本体や部品にかかる費用です。レースで使用するカーボンフレームやホイール、タイヤなどは非常に高価であり、最高のパフォーマンスを維持するためには、定期的な交換やメンテナンスが欠かせません。また、日々の練習で着用するウェアや、レースで使用するユニフォーム代も必要です。さらに、強靭な肉体を維持するためのトレーニング機材の購入費や、身体のケアにかかる費用(マッサージ、整体、治療院など)も大きな出費です。全国各地の競輪場へレースのために遠征する際の交通費や宿泊費、食事代も自己負担となります。加えて、日本競輪選手会への会費や、練習拠点となる競輪場の利用料など、選手としての活動を続けるための様々な費用が発生します。
まとめ
競輪選手という職業は、平均年収が1,000万円を超えるなど、一見すると非常に華やかで高収入な世界に見えます。トップクラスのS級選手になれば年収1億円を超えることも可能であり、まさに夢のあるプロスポーツの世界です。しかし、その収入はレースの賞金が大部分を占める実力主義の世界であり、S級とA級では大きな収入格差が存在します。 また、収入源は賞金だけでなく、レースに出走することで得られる各種手当によって支えられている側面もあります。その一方で、競輪選手は個人事業主であるため、自転車やトレーニング機材、遠征費、身体のメンテナンス費用など、多くの経費を自己負担しなければなりません。高収入を得るチャンスがある反面、常に厳しい競争とトレーニング、そして多くの自己投資が求められる。競輪選手は、そうした厳しさと華やかさが共存する、まさにプロフェッショナルの世界と言えるでしょう。