時速70kmを超えるスピードでバンクを駆け抜ける選手たちの肉体、そして目まぐるしく展開されるライン同士の激しい攻防。競輪は、単なる速さを競うだけでなく、選手たちの思惑や戦略が複雑に絡み合う、奥深いプロスポーツです。その魅力を最大限に楽しむための鍵となるのが「予想」。一見難しそうに見える競輪予想ですが、いくつかの基本的なポイントを押さえることで、初心者の方でもその面白さを実感し、的中へと近づくことができます。この記事では、競輪予想の精度を格段に上げるための重要なヒントである「選手コメント」と、出走表に記された「データ」の読み解き方を、初心者の方にも分かりやすく徹底的に解説していきます。この記事を読めば、競輪観戦がより一層エキサイティングなものになるはずです。
競輪の先方に関するコメントの意味は?

競輪選手のレース前コメントには、そのレースでどのような戦い方をするのかという「戦法」に関する重要なヒントが隠されています。選手たちが発する特有の言葉の意味を理解することで、レース展開をより深く読み解くことができます。
先行
選手がコメントで「先行主体で」「先行基本に」などと発言した場合、それは自ら先頭に立って風を受け、後続のラインを引き連れてレースの主導権を握るという強い意志の表れです。競輪において、先行選手はラインの勝利のために最も過酷な役割を担います。
このコメントが出た場合、その選手がレースのペースを作り、最終周回の主導権を握る可能性が高いと判断できます。特に、ラインの他の選手から信頼されている強力な先行選手のコメントは、そのレース展開を予想する上で最も重要な手がかりの一つとなります。ただし、複数の選手が先行を宣言している場合は、激しい主導権争いが予想され、レースが荒れる可能性も考慮する必要があります。
自力
「自力で戦います」「自力で」というコメントは、競輪予想において非常に頻繁に目にする言葉です。これは、特定の選手の番手につく「追い込み」とは異なり、自分の力でレースを動かし、勝機を見出すという戦法を意味します。
「自力」には、レース序盤から先頭を走る「先行」と、レース中盤から一気に加速して前の選手を抜き去る「捲り(まくり)」の二つの戦法が含まれます。このコメントを発した選手は、レースの展開に応じて、先行策と捲り策のいずれかを選択する可能性が高いことを示唆しています。競走得点が高く、力のある選手がこのコメントをした場合は、その選手がレースの中心になる可能性が高いと判断できるでしょう。
自在に
「自在に戦う」「展開次第で自在に」といったコメントは、経験豊富でレースを読む力に長けた選手がよく使う言葉です。これは、「先行」「捲り」「追い込み」といった特定の戦法に固執せず、レースの状況に応じて最も有利な戦い方を選択するという意味合いを持ちます。
例えば、レースのペースが遅ければ自ら動いて仕掛けることもあり、激しい先行争いが起これば、その動きを見極めて後方から捲りを狙ったり、有利なラインの後ろに切り替えて追い込みを狙ったりします。レース展開を正確に予測するのが難しい場合に、この「自在」選手がどのように動くかが、車券の鍵を握ることも少なくありません。
何でもする
「ラインのために何でもする」「与えられた位置で仕事をする」といったコメントは、主にラインの番手や3番手につく選手から聞かれる言葉です。これは、ラインの先頭を走る先行選手を勝利に導くため、あるいはライン全体が上位に入るために、あらゆる役割を遂行するという強い決意表明です。
具体的には、後方から攻めてくる別ラインの選手をブロックして進路を妨害したり、内側から割り込もうとする選手を牽制したりといった、厳しい仕事を厭わないという意味が込められています。このコメントが出た場合、その選手は自己の勝利よりもラインの勝利を優先する動きをする可能性が高いと読むことができます。
前々に
「前々の位置を取りたい」「前々でレースを進めたい」というコメントは、レースの序盤から中盤にかけて、できるだけ前の位置を確保したいという選手の意図を示しています。 後方にいると、前の選手の動きに対応できなかったり、他のラインに前を塞がれて仕掛けるタイミングを失ったりするリスクがあります。そのため、捲りや追い込みを得意とする選手であっても、勝負どころでスムーズに動けるように、常に前方の良い位置を確保しようとします。「前々」というコメントは、最終的な勝負を仕掛けるための準備として、レース序盤から積極的に位置取りを行うという戦法を示唆しています。
〇〇君
「〇〇君の番手で」「〇〇君を目標に」といったように、他の選手の名前を挙げてコメントすることがあります。これは、その「〇〇君」という選手とラインを組み、その選手の後ろ(番手)についてレースを進めるという、ライン形成を明確にする宣言です。
特に、強力な先行選手の後ろにつく番手選手は、絶好の展開から勝利する確率が高く、車券予想の軸となります。このコメントによって、どの選手とどの選手が連携するのかがはっきりとわかるため、予想を組み立てる上で非常に重要な情報となります。また、「〇〇君に任せる」という表現も同様の意味で使われます。
〇〇3番手
「〇〇ラインの3番手で」「△△君の後ろ」といったコメントは、その名の通り、形成されたラインの3番手の位置を回ることを意味します。
3番手の選手は、先頭の先行選手、2番手の番手選手の後ろで、風の抵抗を最小限に抑えながらレースを進めることができます。その役割は、前の2人を後方から守ることや、最終直線で前の選手たちが競り合った隙を突いて上位に食い込むことです。ラインが強力で、前の2人がレースを支配した場合、3番手の選手が連に絡んでくる可能性は十分にあります。展開によっては、高配当のきっかけとなることもある重要なポジションです。
位置決めず
「特に位置は決めずに」「単騎で」といったコメントは、特定のラインにはつかず、単独でレースを戦うという意思表示です。ラインを組む相手がいない場合や、あえてライン戦に加わらずにレースの隙を突くことを狙う実力選手などがこの戦法を選びます。
単騎の選手は、複数のラインの動きを見ながら、最も有利になりそうなラインの後ろについたり、他の選手が仕掛けるタイミングに合わせて動いたりと、非常にクレバーな立ち回りが求められます。予想する側としては、この単騎の選手がどのラインに影響を与えるのか、あるいはレースをかき乱す存在になるのかを見極める必要があります。
〇〇から
このコメントは、主にメディアやファンに向けて、その選手自身が考える「車券の買い目」を示唆する際に使われることがあります。「自分の調子が良いので、自分(の1着)から買ってみてください」という意味の「自分から」や、「連携する〇〇君が強いので、彼(の1着)からがおすすめです」といった「〇〇君から」という表現です。
もちろん、これはあくまで選手個人の見解やファンサービスの一環であり、必ずその通りになるとは限りません。しかし、選手の自信の度合いや、ラインの信頼関係を読み取るための一つの参考情報として捉えることができます。
何かする
「チャンスがあれば何かしたい」「ただ付いていくだけじゃなく、何か仕掛けたい」といったコメントは、具体的な作戦を明言はしないものの、レースで積極的な動きを見せる意志があることを示唆しています。
これは、特に調子が上向きの選手や、決勝戦などの大事なレースで一発を狙いたい選手から聞かれることがあります。展開待ちのレースをするのではなく、自らレースを動かして勝機を作り出そうという意欲の表れです。
このコメントが出た選手は、予想外のタイミングで仕掛けたり、番手選手を競り落としにいったりするなど、レース展開の波乱要因となる可能性があるため、注意が必要です。
出走表に乗っているB・H・Sとは?

選手のコメントと合わせて、予想の精度を高めるために不可欠なのが出走表に記載された客観的なデータです。特に、選手の脚質(得意な戦法)やレースでの動き方の傾向を示す「B・H・S」という3つの指標の意味を理解することは、競輪予想の基本です。
競輪のBとは?意味や見方
出走表に記載されている「B」は、「バックストレッチライン」の頭文字です。これは、選手が過去4ヶ月間のレースにおいて、最終周回のバックストレッチラインを先頭で通過した回数を示しています。
バックストレッチラインは、ゴールまで残りおよそ半周の地点にあたります。したがって、このBの回数が多い選手は、レースの最終局面の勝負どころで、先頭またはそれに近い前方の良い位置にいることが多い選手と判断できます。先行選手だけでなく、早めに仕掛ける捲り選手もこの数値が高くなる傾向があり、レース終盤での積極性や位置取りの巧さを示す重要なデータです。
競輪のHとは?意味や見方
出走表の「H」は、「ホームストレッチライン」の頭文字を表します。これは、選手が過去4ヶ月間のレースにおいて、最終周回のホームストレッチライン(ゴールの1周前の決勝線)を先頭で通過した回数を示しています。つまり、残り1周を先頭で迎える「先行」を行った回数とほぼ同義です。
このHの回数が多い選手は、自ら風を受けてレースの主導権を握ることを得意とする、典型的な「先行選手」であると判断できます。レースのペースを作るのはどの選手か、どのラインが先行するのかを予測する上で、最も分かりやすく重要な指標の一つと言えるでしょう。
競輪のSとは?意味や見方
出走表の「S」は、「スタート」の頭文字ですが、より正確には「号砲後の周回における先頭員に対する先頭位置(スタート後の位置取り)」を意味します。これは、選手が過去4ヶ月間のレースにおいて、号砲が鳴った後のスタートで、最初に先頭誘導員の後ろの位置(S取り)を確保した回数を示しています。
このSの回数が多い選手は、スタートダッシュが巧みで、レース序盤で有利な前方の位置を取りに行く意識が強い選手であると判断できます。レース序盤の並び、特にどのラインが最初に前方の位置を確保するかを予測する上で、非常に重要な手がかりとなるデータです。
競輪のB・H・Sを予想に活かす方法

B・H・Sの各データは、ただ眺めるだけでは意味がありません。これらの数値を比較したり、他のデータと組み合わせたりすることで、選手の脚質やレース展開をより深く読み解くことができます。
選手の中でBが多いとポジション取りが上手い
B(バック先頭回数)は、単に先行選手の指標というだけではありません。捲りや追い込みの選手であっても、Bの回数が多い場合があります。これは、その選手がレース中盤から終盤にかけて、有利なポジションを確保するのが巧みであることを示しています。
後方に置かれてしまうことなく、勝負どころで必ず前方の良い位置にいることができる選手は、最終的な勝負に絡んでくる可能性が高いです。特に、競走得点が高いにもかかわらず、H(ホーム先頭回数)が少なくBが多い選手は、勝負勘に優れたクレバーな選手であると判断できるでしょう。
BがHの2倍あれば捲りを狙う
選手の脚質をより明確に判断するために、H(ホーム先頭回数)とB(バック先頭回数)の数値を比較してみましょう。もし、Bの回数がHの回数に比べて極端に多い場合、例えば「BがHの2倍以上」あるような選手は、典型的な「捲り」を得意とする脚質である可能性が高いです。これは、残り1周の時点(H)ではまだ後方にいるものの、そこから一気にスパートをかけて、残り半周の時点(B)で先頭に立っている、というレース展開を繰り返していることを示唆しています。
このような選手が出場するレースでは、強力な捲りが決まる展開を予測することができます。
HがBより1回でも多ければ逃げを狙う
逆に、H(ホーム先頭回数)の回数がB(バック先頭回数)の回数と同じか、それよりも多い選手は、典型的な「先行選手(逃げタイプ)」と判断できます。これは、残り1周の時点(H)で先頭に立ち、そのままゴールまで先頭を走り切る「逃げ切り」、あるいは番手選手に交わされるもののゴール前まで粘る、というレースを得意としていることを示しています。このような選手がいる場合、その選手がレースの主導権を握り、スローペースやハイペースなど、自分の得意な展開に持ち込む可能性が高いと予測できます。ラインの先頭を走る選手の脚質を見極める上で非常に有効な判断材料です。
Sの予想を活かすコツを解説
S(スタート後の先頭位置確保回数)のデータは、レース序盤の展開、すなわち「周回中の並び」を予測する上で非常に重要です。Sの回数が多い選手は、スタート後の位置取りに積極的であり、その選手が所属するラインが最初に前方の有利な位置を確保する可能性が高いと判断できます。
競輪では、レース中盤で後方のラインが前方のラインを抑えに来る動きが定石ですが、最初から前方にいることは、レースの主導権を握る上で有利に働きます。出走メンバーの中で誰がSを取りに行くのかを予測し、序盤のラインの並びをイメージすることで、その後のレース展開全体の予測がしやすくなります。
まとめ
競輪予想は、単なる運試しのギャンブルではなく、選手の能力や心理、そしてレースの力学を読み解く、奥深い知的なゲームです。その精度を格段に向上させるためには、選手が発する「言葉の情報」であるレース前コメントと、出走表に記された「データの情報」であるB・H・Sといった客観的な指標を組み合わせることが不可欠です。 選手コメントから戦法やライン連携の意図を読み取り、B・H・Sのデータから各選手の脚質やレースでの動きの傾向を分析する。この両輪を回すことで、レース展開の予測はより立体的で、根拠の確かなものになります。本記事で解説したポイントを参考に、ぜひあなた自身の予想スタイルを確立し、競輪の持つ戦略的な面白さと、的中した時の大きな喜びを存分に味わってください。