時速70kmにも達するスピード、コンマ数秒を争う激しい駆け引き、そしてゴール前の興奮。競輪は、観る者を魅了する迫力あるプロスポーツです。その舞台で活躍する競輪選手たちは、鍛え上げられた肉体と精神力でしのぎを削り、高額な賞金を懸けて戦います。そんな競輪選手という職業に、憧れや興味を抱く方も多いのではないでしょうか。しかし、その華やかな世界の裏には、プロとしてデビューするための非常に厳しく、険しい道のりが存在します。この記事では、競輪選手になるための具体的なステップ、難関とされる養成所の入所試験、そしてプロを目指す者たちが送る厳しい生活環境まで、詳しく解説していきます。
競輪選手になるためのステップは?

プロの競輪選手としてレースに出場するためには、全ての候補者が必ず通らなければならない、明確に定められたステップが存在します。それは、競輪選手を養成するための唯一の機関への入学と、そこでの厳しい訓練、そして最終関門である資格検定の合格です。
日本競輪選手養成所への入学手続き
プロの競輪選手になるための唯一の道は、静岡県伊豆市にある「日本競輪選手養成所(JIK)」に入学し、所定の課程を修了することです。そのため、まず最初のステップは、この養成所の入所試験に合格することを目指し、願書を提出するなどの入学手続きを行うことから始まります。応募資格を満たしていれば、学歴や職歴、自転車競技の経験の有無にかかわらず誰でも挑戦することが可能です。願書は養成所のウェブサイトなどから入手し、必要事項を記入の上、定められた期間内に提出します。この入学手続きが、プロの競輪選手を目指す長い道のりのスタートラインとなります。
日本競輪選手養成所でのトレーニング期間
日本競輪選手養成所の入所試験に合格すると、晴れて候補生として約1年間の養成生活が始まります。この期間は、プロの競身選手として必要な知識、技術、そして強靭な心身を鍛え上げるための、非常に厳しいトレーニングに明け暮れる日々となります。訓練は、自転車の基本的な乗車技術から、レースで勝つための高度な戦法、戦術に至るまで多岐にわたります。走行訓練だけでなく、筋力を向上させるためのウェイトトレーニングや、競輪に関する法規、ルール、選手の倫理などを学ぶ学科教習も行われます。規則正しい集団生活の中で、心身ともにプロとして通用するレベルまで徹底的に鍛え上げられていきます。
競輪選手資格検定の合格条件
約1年間にわたる厳しい訓練を乗り越えた候補生たちを待つ最後の関門が、「競輪選手資格検定」です。これは、養成所の卒業試験にあたるもので、この検定に合格して初めて、プロの競輪選手として登録され、レースに出場する資格を得ることができます。資格検定では、養成所での訓練の成果を測るため、走行能力や技能、そして学科試験などが行われます。たとえ養成所に入所できたとしても、この最終検定に合格できなければ、プロデビューの夢は叶いません。養成所での日々の訓練は、全てはこの資格検定を突破し、プロの世界へ羽ばたくためにあると言えるでしょう。
競輪選手養成所の入所試験は?

競輪選手への第一関門となるのが、日本競輪選手養成所の入所試験です。才能と可能性を秘めた人材を発掘するため、試験は応募者の経歴や実績によっていくつかの種類に分かれており、それぞれ異なる方法で資質が問われます。
毎年10~12月に実施される
日本競輪選手養成所の一般入所試験は、通常、年に1回実施されます。募集要項の発表は夏頃に行われ、願書の受付期間を経て、10月から12月にかけて一次試験と二次試験が行われるのが一般的なスケジュールです。一次試験では、主に実技能力や身体能力が測定されます。二次試験では、面接や人物調査などを通じて、競輪選手としての適性や心構えが総合的に評価されます。試験日程や内容は年度によって変更される可能性があるため、受験を希望する際は、必ず日本競輪選手養成所の公式ウェブサイトで最新の募集要項を確認することが重要です。
17歳以上であれば応募可能
競輪選手養成所の一般入所試験には、学歴や職歴に関する制限は基本的にありません。応募資格として定められているのは、主に年齢です。試験が実施される年の12月1日時点で、満17歳以上であることが条件となります。このため、高等学校に在学中の生徒でも応募することが可能です。年齢の上限については明確な規定はなく、過去には30代や40代で合格した例もあります。しかし、体力的な面を考慮すると、合格者の多くは10代後半から20代前半の若い世代が中心となっているのが実情です。経歴を問わず、強い意志と身体能力があれば誰にでも門戸は開かれています。
自転車競技の経験者は技能試験を受ける
高校や大学の自転車競技部で活躍した選手や、その他の自転車競技で実績を持つ経験者は、「技能試験」という形で選抜が行われます。この試験では、自転車を操る技術や走行能力が直接的に評価されます。主な試験内容としては、一定の距離を一人で走行しタイムを競う「タイムトライアル(1000m、200mハロンなど)」や、身体的な能力を測定する検査などが行われます。これまでの競技経験で培ってきた脚力や持久力、スプリント能力といった、自転車選手としての基礎的な実力が問われる試験と言えるでしょう。実績のある経験者にとっては、その能力を直接アピールできるチャンスとなります。
自転車競技未経験者は適性試験を受ける
自転車競技の経験が全くない未経験者にも、競輪選手になる道は開かれています。そのような候補者を対象に行われるのが「適性試験」です。この試験では、自転車の乗車技術ではなく、競輪選手として必要な潜在的な身体能力や運動センスが評価されます。主な試験内容としては、瞬発力を測る「垂直跳び」や、脚力を測る「背筋力測定」、そして専用の自転車型測定器を使って最大パワーを計測する「ワットバイク」などが行われます。他のスポーツで優れた身体能力を発揮してきた人や、潜在的なアスリートとしての素質を持つ人材を発掘するための試験であり、ここから多くのトップ選手が誕生しています。
世界レベルの実力者は特別試験を受ける
一般の技能試験や適性試験とは別に、「特別選抜試験」という制度も存在します。これは、オリンピックや世界選手権といった国際的な自転車競技大会で優秀な成績を収めた選手や、あるいは他のプロスポーツで極めて顕著な実績を残したアスリートなどを対象とした、特別な選抜枠です。この試験に合格した者は、養成所での一部の訓練が免除されるなど、特別なカリキュラムが組まれることがあります。世界トップレベルの身体能力や実績を持つ人材を競輪界に迎え入れ、業界全体のレベルアップと活性化を図ることを目的としています。まさに、エリートのための特別な登竜門と言えるでしょう。
競輪選手養成所での生活環境は?

日本競輪選手養成所での約1年間は、プロの競輪選手になるための心身を鍛え上げる、非常に厳しく、そして特別な環境が用意されています。候補生たちは俗世間から離れ、ひたすら競輪と向き合う日々を送ります。
1年間の養成所生活
日本競輪選手養成所での生活は、約1年間にわたる全寮制の集団生活です。候補生たちは、静岡県伊豆市にある養成所の敷地内で生活の全てを送ります。朝の起床から夜の就寝まで、厳格なスケジュールと規則に則って行動することが求められます。これは、単に競輪の技術を学ぶだけでなく、プロのスポーツ選手として不可欠な自己管理能力や規律、協調性を養うことを目的としています。全国から集まった同期の仲間たちと寝食を共にし、時にはライバルとして競い合い、時には仲間として支え合いながら、厳しい訓練を乗り越えていきます。
日中から夜までのトレーニング
養成所での一日は、厳しいトレーニングで埋め尽くされています。朝のトレーニングに始まり、日中はバンク(競輪場の走路)での走行訓練が中心となります。自転車の基本操作から、レースで勝つための高度な戦法、ダッシュ力や持久力を高めるための様々なメニューが組まれています。走行訓練以外にも、筋力トレーニングや、競輪に関する法規、ルール、選手の倫理、身体のケアなどを学ぶ学科教習も行われます。夕食後も、自主的なトレーニングやその日の訓練の復習など、自己研鑽の時間が続きます。心身ともに限界まで追い込むことで、プロの世界で戦い抜くための土台が築かれます。
携帯電話の使用に制限がある
養成所での生活は、外部との接触が厳しく制限されていることも大きな特徴です。特に、候補生が所有するスマートフォンや携帯電話は、入所時に養成所に預けることになっており、自由に使用することはできません。外部との連絡は、決められた時間や方法(公衆電話など)に限られます。これは、候補生が約1年間の訓練期間中、脇目もふらずに競輪に集中するための措置です。インターネットやSNSといった外部からの情報や誘惑を遮断し、ひたすら自分自身と向き合い、心身を鍛錬する。このストイックな環境こそが、多くのトップ選手を生み出す土壌となっているのです。
競輪選手になるための条件とは?

競輪選手になるためには、入所試験の応募資格としていくつかの基本的な条件が定められています。身体的な特徴や性別、年齢について、どのような条件があるのかを見ていきましょう。
競輪選手になるために必要な身長制限
結論から言うと、競輪選手になるために明確な身長制限は設けられていません。応募資格にも、身長に関する規定は含まれていません。実際に、プロとして活躍している選手の中には、比較的小柄な選手もいれば、長身の選手もいます。小柄な選手は、空気抵抗が少ない、あるいは瞬発力を活かした戦法を得意とするなど、その体格を強みに変えることも可能です。身長が高いか低いかということよりも、競輪選手として必要なパワーやスピード、持久力を生み出すための総合的な身体能力と、それを最大限に活かす技術の方が重要視されると言えるでしょう。
女性が競輪選手になる条件は?
現在、女子競輪である「ガールズケイリン」が大きな盛り上がりを見せており、女性が競輪選手として活躍する道も確立されています。女性が競輪選手になるための基本的なステップは男子と同様で、日本競輪選手養成所に入所し、所定の訓練を経て資格検定に合格する必要があります。応募資格も、年齢条件(満17歳以上)などを満たしていれば、性別による特別な制約はありません。近年では、他のスポーツから転向してトップ選手になるケースも多く、自転車競技の経験がなくても、高い身体能力があれば適性試験を通じて合格するチャンスは十分にあります。
競輪選手になるための年齢制限
競輪選手養成所の一般入所試験の応募資格には、年齢の下限として「満17歳以上」という規定がありますが、上限については明確な定めがありません。つまり、何歳であっても挑戦することは可能です。実際に、過去には30代や40代で養成所に合格し、プロデビューを果たした選手も存在します。しかし、競輪は極めて高い身体能力が求められるスポーツであるため、合格者の多くが10代後半から20代前半の若い世代であることも事実です。年齢を重ねるほど、体力試験や厳しい訓練を乗り越えるハードルは高くなる傾向にあると言えるでしょう。
競輪選手になるためのよくある疑問

競輪選手を目指すにあたり、多くの方が抱くであろう様々な疑問について、一つずつお答えしていきます。年収や適性、費用など、気になるポイントを解消していきましょう。
競輪選手の年収はどれくらい?
競輪選手の年収は1,200万円から1,400万円程度と非常に高い水準ですが、これはあくまで平均値です。頂点であるS級S班の選手は年収1億円以上を稼ぎ出す一方、A級の下位選手では年収500万円程度となることもあり、厳しい階級格差が存在します。収入の大部分はレースの賞金であり、まさに実力が収入に直結する世界です。ただし、出走手当などの制度もあり、レースに参加することで一定の収入は確保されます。
競輪選手に向いている人の特徴は?
競輪選手として成功するためには、単に身体能力が高いだけでなく、いくつかの重要な資質が求められます。まず、日々の厳しいトレーニングを継続できる強靭な精神力とストイックな自己管理能力は不可欠です。そして、レースでの勝利に対する強い執着心や闘争心も必要です。また、競輪は単独で走るだけでなく、ラインを組んで戦うチームプレーの側面もあるため、レース展開を読む戦略的思考力や、他の選手との駆け引きを行う冷静な判断力も重要な要素となります。
競輪選手になれる確率は?
競輪選手になる道は非常に狭き門です。日本競輪選手養成所の入所試験の倍率は、年度や試験区分によって異なりますが、例年4倍から5倍程度、時にはそれ以上になることもあります。応募者の中から、厳しい体力試験や技能試験をクリアし、面接などを経て選抜された者だけが入学を許されます。つまり、応募したからといって簡単になれるわけではなく、高い競争率を勝ち抜かなければなりません。プロとしてデビューできるのは、ほんの一握りの限られた人材のみです。
誰でも競輪選手になれる?
誰でも応募資格である「満17歳以上」という年齢条件を満たしていれば、学歴、職歴、国籍(ただし、日本国内での就労に制限がないこと)を問わず、誰でも競輪選手を目指すことができます。自転車競技の経験がなくても、身体能力を測る「適性試験」という道が用意されているため、他のスポーツで培った能力を活かして挑戦することも可能です。ただし、前述の通り、非常に厳しい入所試験と、養成所での過酷な訓練を乗り越える覚悟と努力が不可欠であることは言うまでもありません。競輪選手になれる?
競輪選手としてプロになるには?
競輪選手としてプロデビューするための唯一のルートは、日本競輪選手養成所に入所し、約1年間の訓練課程を修了した上で、卒業時に行われる「競輪選手資格検定」に合格することです。この資格検定に合格することで、初めてJKA(競輪とオートレースの統括団体)に選手として登録され、プロの競輪選手としてレースに出走する資格が与えられます。養成所に入学することがゴールではなく、そこでの厳しい訓練をやり遂げ、最終試験を突破することがプロへの絶対条件となります。
競輪選手になるための費用は?
競輪選手になるためには、一定の費用が必要となります。まず、日本競輪選手養成所に入所する際には、入所金や年間の授業料、寮費、食費などを含めて、年間で約120万円程度の費用がかかるとされています。また、これとは別に、訓練で使用する自転車本体や部品、練習着、ヘルメット、プロテクターといった様々な機材も、基本的には自己負担で準備する必要があります。プロを目指すためには、ある程度の初期投資が必要になることを理解しておく必要があります。
まとめ
競輪選手になる道は、多くの人が想像する以上に厳しく、険しいものです。その第一歩は、高い競争率の日本競輪選手養成所の入所試験を突破することから始まります。合格後も、外部との接触が制限された全寮制の環境で、約1年間にわたる過酷なトレーニングと厳しい規律に耐え抜かなければなりません。そして、最終関門である資格検定に合格して初めて、プロの競輪選手としてのスタートラインに立つことができます。 しかし、その道のりが厳しいからこそ、経歴や学歴を問わず、自らの肉体と精神力で高収入と栄光を掴むチャンスがある、夢のある職業とも言えます。この記事で解説した内容を参考に、競輪選手という職業への理解を深め、もし挑戦するのであれば、強い意志と覚悟を持ってその門を叩いてみてください。