企業経営において資金調達は重要課題です。銀行融資は低金利で大きな資金を調達できる手段として広く利用されていますが、厳格な審査があり、必要書類や手続きの流れを理解しておくことが不可欠です。
本記事では、法人・個人事業主が銀行融資を受ける際に必要な書類や申込から融資実行までの流れを解説します。
銀行融資とは?

銀行融資とは、銀行が法人や個人事業主に対して事業用資金を貸し出す制度です。低金利で比較的大きな金額を借りられる特徴があり、運転資金や設備投資など様々な用途に利用できます。
融資を受けるには銀行の審査基準を満たす必要があり、事業の安定性や返済能力などが判断されます。
銀行融資の種類
銀行融資には主に3つの種類があります。
- プロパー融資
銀行が独自の責任で融資を行うもので、金利が低く限度額に上限がない特徴があります。
- 信用保証協会付き融資
信用保証協会が保証人となることで融資を受けやすくなりますが、保証料が発生します。
- ビジネスローン
審査がスピーディーで書類も少なく済みますが、金利は比較的高めです。
それぞれの融資形態によって審査の厳しさや必要書類が異なるため、自社の状況に合った融資方法を選択することが重要です。
銀行からの融資には審査が必要
銀行融資を受けるには必ず審査を通過する必要があります。審査では申込者の信用状況や事業の収益性、返済能力などが厳密にチェックされます。
銀行は「融資の5原則」(安全性、収益性、公共性、流動性、成長性)を重視し、特に返済能力の有無が重要な判断材料となります。
審査は決算書や事業計画書などの提出書類をもとに定量的・定性的両面から総合的に判断されるため、書類は正確かつ丁寧に作成し、返済能力を明確に示すことが審査通過のポイントです。
銀行融資の際に審査に必要な書類とは?

銀行融資には複数の書類提出が求められます。これらは申込者の信用力や返済能力を判断する重要な材料となります。
銀行によって要求書類が異なる場合もあるため、事前に融資担当者に確認しておくことをおすすめします
借入申込書
借入申込書は、融資申込の基本となる書類です。
- 借入希望金額
- 返済期間
- 資金使途
- 申込者の基本情報
等を記入します。
金融機関ごとに所定の様式があり、窓口で直接受け取るか、金融機関のホームページからダウンロードできる場合もあります。
さらに、借入申込書には企業の基本情報だけでなく、借入希望額の根拠となる資金計画や返済計画も記載することが重要です。
決算書
決算書は、企業の財務状況を示す重要な書類です。
一般的に直近2〜3期分の提出が求められ、決算書には
- 貸借対照表
- 損益計算書
- キャッシュフロー計算書
- 株主資本等変動計算書
等が含まれ、銀行はこの決算書を通じて、企業の収益性、安定性、成長性などを評価します。特に営業利益や経常利益の推移、自己資本比率、債務返済能力などが重視されますし、税理士が作成した決算書は信頼性が高く評価される傾向があります。
試算表
試算表は期中の企業財務状況を示す書類で、決算月から3ヶ月以上経過している場合に提出を求められます。最新の財務状況や売上・利益の月次推移が確認でき、決算書だけでは把握しきれない直近の業績を判断する材料になります。
銀行は「残高科目」「損益科目」「月別推移」などをチェックし、現在の財務状態や収益力を評価します。
事業計画書
事業計画書は、企業のビジョンや戦略、収支計画などを記載する書類で、特に創業融資や新規事業向けの融資では重要視されます。銀行は事業計画書を通じて、事業の実現可能性や成長性、融資金の使途、返済計画の妥当性などを判断します。
- 計画書には
- 市場分析や競合状況
- 差別化戦略
- 収支予測
等を具体的、かつ根拠をもって記載することが重要です。
資金繰り表
資金繰り表は一定期間の現金収支をまとめた集計表で、企業のキャッシュフローを把握するために使用されます。銀行は融資金の返済能力やキャッシュフローの健全性を判断します。
売上や仕入れの支払いサイクルを反映した実際の資金の動きを記載することが重要で、取引条件に基づいた入金・支払いのタイミングを正確に反映させる必要があります。
過去の実績だけでなく将来の見通しも含めた資金繰り予定表も審査では重視されるため、実現可能で根拠のある計画を示すことが大切です。
履歴事項全部証明書
履歴事項全部証明書(商業登記簿謄本)は、会社の登記情報を証明する公的な書類です。会社名、本店所在地、資本金、代表者、事業目的などの基本情報が記載されています。銀行は履歴事項全部証明書を通じて、企業の法的な実体を確認します。
この書類は法務局で取得でき、通常は発行後3ヶ月以内のものが有効とされている上、銀行融資の申込時には最新の情報が反映された履歴事項全部証明書を提出することが求められます。
納税証明書
納税証明書は、税金の納付状況を証明する公的な書類です。法人税、消費税、所得税など、納付すべき税金をきちんと納めていることを示します。銀行は納税証明書を通じて、企業の納税状況や社会的責任を果たしているかどうかを確認します。
税金の滞納がある場合、企業の信用度や返済能力に疑問が生じるため、融資審査に悪影響を及ぼします。
納税証明書は税務署の窓口で申請できるほか、電子申告・納税システム(e-Tax)でもオンライン請求が可能です。
銀行取引一覧表
銀行取引一覧表(銀行取引明細表)は、他の金融機関との取引状況をまとめた書類で、
- 銀行名
- 借入金の種類(短期・長期・割手)
- 借入額
- 返済条件
- 預金残高
等を記載します。
銀行はこの書類を通じて、申込者の借入状況や返済負担、資金調達力などを総合的に判断します。
なお、銀行取引一覧表に決まったフォーマットはありませんが、融資担当者に相談すれば適切なフォーマットを教えてもらえることが多いです。
法人が融資を受ける場合の必要書類

法人が銀行融資を受ける場合、個人事業主とは異なる書類が必要です。
- 法人の印鑑証明書
- 商業登記簿謄本(履歴事項全部証明書)
これらは法人の実体や信用性を証明するもので、融資審査の重要な判断材料となります。法
人格により融資審査は通りやすくなる傾向がありますが、求められる書類や審査の厳格さも増します。
法人の印鑑証明
法人の印鑑証明書は、法人の代表者が登録した実印が本物であることを証明する公的書類です。銀行融資の契約時に、契約書に実印を押印しその印鑑が登録されたものであることを証明するために必要です。
法務局で発行され、通常は発行後3ヶ月以内のものが有効となる上、法人融資では法人の印鑑証明書に加え、連帯保証人となる代表者個人の印鑑証明書も必要になることが多いです。
商業登記簿謄本
商業登記簿謄本(現在の名称は「履歴事項全部証明書」)は、法人の基本情報が記載された公的書類で、
- 会社名
- 本店所在地
- 設立年月日
- 資本金
- 役員構成
- 事業目的
等が登記されています。
銀行は商業登記簿謄本を通じて、法人の実体や経営体制を確認します。
商業登記簿謄本は法務局で取得でき、オンラインでの請求も可能です。通常、発行後3ヶ月以内のものが融資申込に有効とされます。
商業登記簿謄本に記載されている内容と実際の経営状況に相違がある場合(たとえば役員の変更が反映されていないなど)は、最新の情報に更新してから融資を申し込むことが望ましいです。
個人が融資を受ける場合の必要書類

個人事業主が銀行融資を受ける場合、法人とは異なる書類が必要となりますが、基本的には本人確認書類や収入証明書類、事業関連書類などが求められます。
法人に比べて審査が厳しくなる傾向がありますが、事業の実績や信用力を証明する書類をしっかりと準備することで融資を受けやすくなります。
個人事業主の場合、事業と個人の財産が明確に区分されていないため、個人の資産状況や信用情報も重要な審査材料となります。
本人確認書類
個人事業主が銀行融資を申し込む際には、本人確認書類の提出が必要です。
一般的に受け付けられる本人確認書類には、
- 運転免許証
- マイナンバーカード(表面のみ)
- パスポート
- 健康保険証
等があり、これらの書類は本人の身元や住所を確認するために使用されるので、提出の際は、有効期限内の書類であることや、現住所が記載されていることを確認してください。
最近では電子契約サービスを導入している銀行もあり、その場合は本人確認書類の画像データが必要となることもあります。
本人確認書類に加えて、個人事業主の場合は開業届の写しや確定申告書なども求められます。
申込から審査、融資までの流れを解説

銀行融資は申込から融資実行まで複数のステップを経て進みます。以下で、一般的な流れを確認していきましょう。
なお、融資審査には一定の時間がかかるため、資金が必要になる時期よりも余裕を持って申込を始めることが重要です。
STEP1:申込
銀行融資の第一歩は「申込」です。
銀行窓口や担当者に直接相談するのがよく、事前に電話で予約を入れるとスムーズですが、初めての取引となる銀行ではまず融資相談から始めましょう。
相談時は借入希望額、返済計画、資金使途などを具体的に説明できるように準備をし、会社案内や直近の決算書などの基本資料を持参すると、より具体的な話し合いができます。
申込方法は銀行によって異なり、窓口申込のほかオンライン申込が可能な場合もあります。
STEP2:書類の提出
銀行融資の申込が受け付けられると、審査に必要な書類提出を求められます。
提出書類は銀行や融資種類によって異なりますが、
- 決算書
- 試算表
- 事業計画書
- 資金繰り表
等の基本書類は必須となり、提出にあたっては不備や記載漏れがないようきちんと確認をして、期限内に提出することが大切となります。
提出書類は銀行の審査担当者によって詳細に検討されるため、内容に一貫性があり返済能力が客観的に示されるよう心がけましょう。また、銀行から追加書類の提出を求められることもあるため、迅速に対応できるよう準備しておくとよいでしょう。
STEP3:担当者との面談
銀行融資における「担当者との面談」は、書類だけでは伝わらない事業の強みや経営者の人柄、事業への熱意をアピールする重要な機会です。
面談では事業内容、資金使途、返済計画などについて詳しく質問されるため、具体的かつ論理的に説明できるよう準備しておきましょう。特に創業融資や新規事業向け融資では、事業の実現可能性や市場性、差別化戦略などが重視されます。
銀行によっては面談後に店舗や事業所の訪問調査も行われます。
STEP4:審査
銀行融資の審査は、提出書類や面談内容をもとに総合的に判断されます。
主に
- 資金使途
- 返済財源
- 保全状況
等が重点評価され、銀行は融資金の使途の適切さ、返済能力の十分さ、万一の場合の担保や保証人の適切さなどを細かくチェックします。
審査期間は融資種類や金額によって異なりますが、プロパー融資で2〜3週間、信用保証協会付き融資では1ヶ月程度かかることが多いです。この間に追加質問や資料提出を求められることもあるため、速やかに対応できるよう準備しておきましょう。
審査結果は通常、電話やメールで通知され、通過すれば融資条件(金額、金利、返済期間など)が提示されます。
STEP5:融資実行
銀行融資の最終ステップである「融資実行」では、銀行から提示された融資条件に合意した後、契約手続きを行います。
契約には借用証書や金銭消費貸借契約書などへの署名・捺印が必要で、法人の場合は実印と印鑑証明書が求められます。契約書類の内容はよく確認し、返済条件や金利などに不明点があれば質問しておきましょう。
契約手続き完了後、融資金は指定した銀行口座に入金されます。融資実行から入金までは通常、3営業日程度かかるため、資金繰りに余裕を持たせておくことが重要です。
また、融資実行と同時に返済もスタートするため、返済計画に沿った資金管理を徹底し、遅延なく返済を続けることで銀行との信頼関係を築くことが大切です。
まとめ
銀行融資を受けるためには、適切な必要書類の準備と申込から融資実行までの流れを理解することが重要です。法人・個人事業主ともに、返済能力を客観的に示す決算書や事業計画書などの書類を丁寧に作成し、銀行との信頼関係を構築することが審査通過のカギとなります。
融資申込から実行までには一定の時間がかかるため、余裕を持った計画が必要です。また、資金使途や返済計画を明確にし、担当者との面談では誠実かつ具体的な説明を心がけましょう。
銀行融資は低金利で大きな資金調達が可能な重要な手段であり、事業の成長や安定のためにも、正しい知識と準備で臨むことをおすすめします。